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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)426号 決定

二 本件記録によれば、次の事実が認められる。

1 別紙物件目録記載(一)、(二)、(三)の土地(以下それぞれの土地を「本件(一)、(二)又は(三)の土地」といい、全部の土地を「本件各土地」という。)は、債権者川崎信用金庫、債務者兼所有者株式会社染谷工務店間の千葉地方裁判所昭和五六年(ケ)第五七一号不動産競売事件の目的物件であるところ、同裁判所は、評価人金井佑次の評価に基づき最低売却価額を評価価格と同額(ただし、千位以下を切り捨て)、すなわち本件(一)の土地につき金一三七六万円、本件(二)の土地につき金一五七六万円、本件(三)の土地につき金一五八六万円と定め、二回にわたって期間入札の方法による売却を実施したが、買受けの申出はなかった。

2 そこで、同裁判所は、執行官に命じて特別売却を実施し、昭和五八年一二月二二日、抗告人住友信販株式会社が本件(一)、(二)の土地につき、抗告人三井信販株式会社が本件(三)の土地につきそれぞれ右最低売却価額による買受けの申出をしたので、昭和五九年一月九日、右当該各土地につき抗告人らを買受人とする右最低売却価額での売却許可決定をし、この決定は同月一七日に確定した。

3 法務局備付けの公図によると、本件各土地は西から東へ本件(一)の土地、本件(二)の土地、本件(三)の土地の順で隣接する位置関係にあり、本件(一)の土地の西側は南北へ通じる市道に面していることになっているところ、土地の現況も本件(一)の土地の西側とおぼしき個所には南北へ通じる道路が存在しており、一見すると、右道路及び本件各土地の位置関係は公図上の記載と同じような状況を呈している。そのため千葉地方裁判所執行官加藤力弥作成の現況調査報告書には、本件各土地の占有状況として、地上には第三者がこれを占有していることを示す物件は見当らず、本件各土地はその所有者の占有下にあるものと思われる旨の記載があり、物件明細書には本件(一)の土地の一部が第三者によって占有され、また道路敷となっていること等の記載は全くない。また、評価人金井佑次は、本件(一)の土地は幅員四メートルの未舗装市道に西面しており、本件各土地は空地であって、所有者が占有しているとの事実認識のもとに、その価格を本件(一)の土地につき金一三七六万四〇〇〇円、本件(二)の土地につき金一五七四万四〇〇〇円、本件(三)の土地につき金一五八六万四〇〇〇円と評価したものである。

4 抗告人らは、いずれも不動産の売買等を営業目的とする会社ではあるが、実質的にはいずれもその代表者である福地忠の個人企業であり、福地は、本件(一)の土地の西側が公道に面しているので、本件各土地を全体として区画分譲することが可能であると判断し、そのような計画のもとに、本件各土地につき買受けの申出をしたものである。ところが、買受申出をした後、福地において土地の現況を調査したところ、現在ある道路は、本件(一)の土地附近においては、本来の市道の位置よりもかなり東へ寄っており、本件(一)土地とその北側の個人所有地内を貫通していること、その結果、本件(一)の土地は道路をはさんで東西に分断され、しかも、その西側の部分と、さらにその西側に接しているはずの本来の市道部分は、その西側の土地で造成工事が行われた際、取り込まれてしまい、既に何人かの第三者によって占有され、住居敷地の一部等になっていることが判明した。そこで、福地は千葉市長に対し道路位置の査定(境界確認)を求めたが、同市長は昭和五九年一月二三日付けでこれが不可能である旨を回答した。

三 右事実によれば、現在の道路は、本件(一)の土地附近においては、個人の所有地内を通っているのであって、本件(一)の土地は公図上では公道に面していることになっているが、実際には面していないのであり、本件各土地の所有者(区画分譲後は各区画地の所有者)が現在の道路のうち右個人所有地内を通っている部分を自由に通行できる保証はなく、このことは抗告人らの前記区画分譲計画の遂行上大きな障害となることは推認するに難くないところである。また、抗告人住友信販株式会社が本件(一)の土地の所有権を取得した場合、理論的には同抗告人において本件(一)の土地のうち第三者によって占有されている部分を取り戻し、千葉市に働きかけて現在の道路の位置を本来の市道の位置に戻すことも不可能なわけではないが、実際問題としては極めて困難なことであり、本件(一)の土地、ひいては本件各土地全体がおかれている以上のような状況は本件各土地の価格に何らかの影響を及ぼすものと考えられるところ、評価人金井佑次の評価によれば、以上の状況を踏まえたうえでの評価価格は、そのような状況が存しない場合のそれよりおよそ二〇パーセントを減じ、本件(一)の土地については金一一〇一万一〇〇〇円、本件(二)の土地につき金一二五九万五〇〇〇円、本件(三)の土地については金一二六九万一〇〇〇円であること、また抗告人らが依頼した不動産鑑定士米元行雄の鑑定評価では、右のような状況下での価格は、評価人金井佑次の評価価格よりもさらに低く、本件(一)の土地につき金一〇四二万二九〇〇円、本件(二)の土地につき金一一八〇万八〇〇〇円、本件(三)の土地につき金九九一万五〇〇〇円であることが認められる。してみると、本件(一)の土地、ひいては本件各土地全体について存する以上のような状況は、その価格にかなりの影響を及ぼすものであり、その程度は軽微とはいえないものというべきである。

ところで、民事執行法第七五条第一項本文は、最高価買受申出人又は買受人は、買受けの申出をした後天災その他自己の責に帰することのできない事由により不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売却許可決定前にあっては売却の不許可の申出をし、売却許可決定後にあっては代金を納付する時までにその決定の取消しの申立てをすることができる旨を規定しているところ、同法条が買受けの申出をした後不動産が損傷した場合について規定し、買受けの申出をする前に不動産が損傷した場合について同趣旨の規定をしなかったのは、右後者の損傷は、民事執行の手続上、当然に評価人による目的不動産の評価及びこれに基づく執行裁判所による最低売却価額の決定の段階で考慮され、また物件明細書の記載にもこれが反映されるべきはずのものであるから、理論上、その必要がなかったことによるものである。しかしながら、執行実務の実際においては、目的不動産に損傷が生じているのに、執行官による現況調査、評価人による評価、執行裁判所による最低売却価額の決定及び物件明細書の作成等の各手続段階においてこれが見過ごされ、手続が最高価買受申出人による買受の申出以後の段階にまで進行することも皆無とはいい切れない。この場合においては、目的不動産について生じた損傷は、最低売却価額にも、物件明細書の記載にも反映されないわけであるから、最高価買受申出人又は買受人からすれば、買受けの申出をした後不動産が損傷した場合と何ら選ぶところがないのであり、したがって、前記法条は右のような場合にも拡張して適用されると解するのが相当である。

また、右法条は、代金の納付により目的不動産が買受人の所有に帰するまでの間に最高価買受申出人又は買受人の責に帰することのできない事由により目的不動産が損傷しその価額が低落した場合、右最高価買受申出人等を保護することを趣旨とするものであるところ、同法条が天災その他による「損傷」と規定したのは、目的不動産の価額が低落する通常の場合を想定したものであって、「損傷」以外の原因で目的不動産の価額が著しく低落した場合にも同法条が類推適用されると解するのがその規定の趣旨に照らして相当である。そこで、これを本件についてみるのに、前述したとおり、本件においては、競売の目的不動産である本件(一)の土地の一部が第三者によって占有され、また道路敷の一部となっているうえ、西側に隣接しているはずの公道が実際には存在せず、そのために本件(一)の土地、ひいては本件各土地全体の価額が右のような状況にない場合に比して二〇パーセント若しくはそれ以上にわたって低落しているのであるから、本件当該各土地の買受人である抗告人らは、右法条に基づき、執行裁判所に対し前記売却許可決定の取消しの申立てをすることができるのであり、抗告人らの申立ては理由があるから、右売却許可決定は取り消されるべきである。

(磯部 大塚 佐藤)

物件目録

(一)千葉市高津戸町七三一番

一、山林 一、一一〇平方メートル

(二)同所七三二番

一、山林 一、三一二平方メートル

(三)同所七三三番

一、山林 一、三二二平方メートル

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